契約書の効力の一つとして、裁判の際に証拠となることが上げられます。そこで、契約書に記載される用語は、裁判官がわかりやすいように、法律用語の使用方法に従うことが基本となっています。

法律用語の使い方は、読んだ人が誤解しないように、使われる用語の意味は、確定され、使用の仕方(用法)について様々な規則が決まっています。それらの規則は、厚い一冊の本になるほどです。

とはいえ、契約書の作成のためには、法律用語の内、下記の「及び」と「並びに」そして、「又は」と「若しくは」を理解すればとりあえずはよいと思います。

「及び」と「並びに」

「及び」と「並びに」は、二つ又は三つ以上の語句を接続する接続詞であり、英語でいえば、「and」に対応するものです。

法律では、以下の①~③の用法で使われることになります。

① AとBのように二つの語句を単に並べる場合は、「及び」が使われることになります。
例えば、民法の基本原則を記載した民法1条2項は
「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」
と、この規則にしたがって、規定しています。

また、A、B、Cのように3つ以上の語句を並列して接続する場合は、「A、B及びC」のように、それぞれの語句を「、」で接続し、「及び」は、最後の語句の前に1回だけ記載することになります。

例えば、法人の成立等を規定した民法33条2項は、
「学術、技芸、慈善、祭祀し、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

② ①のように単純に同じレベル(段階)が並ぶ場合ではなく、語句が二つの段階で構成されており、これらを並べる場合、小さな段階は「及び」で接続し、大きい段階は「並びに」で接続することになります。

例えば、民法の使用貸借の解除を規定した民法第598条2項は、 
「当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

この条文の場合、まず、大きく
ア【使用貸借の期間】と、
イ【「使用の目的」・「収益の目的」】
と分けられ、「並びに」で接続しています。そして、小さい段階であるイの【「使用の目的・「収益の目的」】の内部が「及び」で接続されています。

③ 接続の段階がさらに複雑になって三段階以上も続くような場合には、一番小さな段階だけに「及び」を用い、それ以外の接続にはすべて「並びに」を用いることになります。

例えば、未成年後見人の選任を規定した民法第840条第3項は、
「未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

この条文は、未成年後見人に選任する際に考慮される事項について
ア【未成年被後見人の年齢、心身の状態】
 並びに
イ【生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業】及び【経歴】
 並びに
ウ【未成年被後見人との利害関係の有無】
という構造で示しています。

ア、イ、ウの大きな段階については「並びに」で接続し、イの内部の【生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業】と【経歴】という一番小さな段階については「及び」で接続しています。なお、その後の()内の「未成年後見人となる者が法人であるとき」に考慮される事項についても、「並びに」と「及び」で、規定されていますが、これは、②の用法です。

とはいえ、この③の用法は、不特定多数の人に適用される法律の条文についてはよいですが、契約書の条項をここまで、複雑な構造で記載すると、契約当事者がわからなくなる可能性があります。

契約書は、裁判の基準となるとともに、契約当事者がその契約にしたがって、どのように行動すべきであるかの基準となるものです。

この観点からすると、契約当事者の属性(片方当事者が消費者か。双方が専門家かなど)にあわせ、文章を短くしたり、事項ごとに番号づけするなどして、契約当事者にわかりやすくするようにした方が良い場合が多いでしょう。

「又は」と「若しくは」

「又は」と「若しくは」は、複数の語句を選択的に接続する接続詞で、英語で言えば「or」に対応するものです。

法律においては、以下の①~③の用法で使われることになります。

① AとBのように二つの語句を選択的に並べる場合は、「又は」が使われることになります。

例えば、民法の公序良俗を記載した民法90条は
「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

 A、B、Cのように選択される語句が3個以上の時は、「A、B、又はC」のように、それぞれの語句を「、」で接続し、「又」は、最後の語句の前に1回だけ使用することになります。

例えば、民法の後見開始の審判を記載した民法7条は
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

② ①のように選択される語句が単純に同じレベル(段階)ではなく、2つの段階で構成されており、これらを並べる場合、一番大きい段階には「又は」を使用し、小さい段階には「若しくは」を使用することになります。

例えば、民法の代理行使の瑕疵を記載した民法101条は
「代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

この条文の場合、まず、大きく
ア 【意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫】と、
イ 【ある事情を知っていたこと】・【知らなかったことにつき過失があったこと】
に分けられ、アとイを「又は」で接続しています。そして、小さい段階であるイの内部が「若しくは」で接続されています。

③ 選択される語句に段階がある場合には、段階がいくつあっても、一番大きな段階の選択的接続に1回だけ「又は」を用い、その他の小さな段落には、繰り返して「若しくは」を使用することになります。

例えば、民法の抵当権の処分を記載した第376条は
「抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。」
と、この用法にしたがって、規定しています。

この条文の構造は、まず、大きい段階であるアとイ(債権の担保とする場合と譲渡・放棄の担保権者の変更をする場合)を
ア 「その抵当権を他の債権の担保とし、」
又は
イ 「同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。」」
と「又は」で接続しています。

そして、イのその次に小さな段階(譲渡する場合と放棄する場合)について
ウ 「同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、」
若しくは
エ 「放棄することができる」。
と、「若しくは」で接続しています。

さらに、ウの最も小さな段階(抵当権を譲渡する場合と順位を譲渡する場合)について
オ 「「同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権」
若しくは
カ 「その順位を譲渡し、」
と、「若しくは」で接続しています。

「及び」と「並びに」の場合には、まず、「及び」を使い、それより大きな段階での接続はすべて「並びに」を使います。これに対し、「又は」と「若しくは」の場合は、逆に、まず「又は」を使用しますが、それより小さな段階での接続は、すべて「若しくは」を使用することになります。

しかし、「及び」と「並びに」の場合でも記載しましたが、この③の用法を使用するのは不特定多数の人に適用される法律の条文の場合はよいですが、契約書の条項をここまで、複雑な構造で記載すると、契約当事者がわからなくなる可能性があります。

契約当事者の属性(片方当事者が消費者か。双方が専門家かなど)にあわせ、文章を短くしたり、事項ごとに番号づけするなどして、契約当事者にわかりやすくするようした方が良い場合も多いでしょう。

「乃至(ないし)」

「乃至(ないし)」は、通常は、選択肢を列挙する場面で「又は」「若しくは」と同じ意味で用いられる表現ですが、法律用語としては、「~から~まで」という範囲を示す表現として、使用されていました。

そのため、古い法律では、例えば「第37号証第1号から第5号まで」の意味で「第37条第1号乃至第5号」と使われていました。しかし、「乃(ない)の字が当用漢字として用いられなくなったので、現在では、法律については、すべて「●●から●●まで」と表現するようになりました

前記のとおり、乃至(ないし)は、通常は、「又は」等の意味で使われることから、誤解をさけるため、契約書等では、これを使わず、「●●から●●まで」とするのが妥当でしょう。

なお、現在でも、判決や弁護士の書いた文章で、「乃至(ないし)」が使われることがありますが、これは、ほとんどの場合、前記の法律用語で使用される「●●から●●まで」という意味です。